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疋田智『ものぐさ自転車の悦楽――折りたたみ自転車で始める新しき日々』(マガジンハウス)は、折り畳み自転車を主に取り上げているものの、自転車に興味を持った人全般にとって興味深い本となっています。最近自転車がブームらしいけどどうなんだろう、と思っている人には格好の一冊といえます。

折り畳みに限らず、自転車に乗るうえでの色々なノウハウが説明されているので、これ一冊あれば、今までママチャリしか知らなかった人でもちゃんとした自転車のある生活が始められるようになります。実のところは、折り畳み自転車以外にも共通する話が多いといえます。

初心者向きとして折り畳み自転車を取り上げている理由としては、いざとなったら折り畳んで電車やタクシーに乗ってしまえばいいという気軽さが、勿論ひとつにはあります。しかしそれだけでなく、もし将来的にもっと別のタイプの自転車(ロードレーサーやMTBなど)に興味を持ったとしても、折り畳み自転車には異なる価値があるので、捨てる必要がない、併用できるという美点も説かれています。

さて、本書の導入部で自転車の効用のひとつとして説かれている、著者が自転車に乗るようになってクルマを手放したことによる経済効果の大きさは特筆に価します。駐車場代やガソリン代や税金などで年間約70万円、その額を住宅ローンの繰り上げ返済に充てたことで、10年間で実に1400万円もの違いになったといいます。これはすごい。

そういえば大前研一氏が以前雑誌に書いていたことですが、日本人はマイホームとマイカーにこだわらなければもっと豊かに生活できるということでした。30年前ならばマイホームとマイカーはそれ自体が豊かさの象徴だったかもしれませんが、今や我々をとりまく環境は大きく変わっています。不動産を買っても資産価値が下がってしまっていいのか、クルマはレンタカーやカーシェアリングで十分でないのか、といったことを合理的に判断するのが今時の賢い生活者でしょう。

自動車が大好きという人ならばクルマの所有にかかるコストも苦にならないかもしれませんが、そこは価値観次第です。一体、自動車や新築マンションに、その値段や維持費や手間を含めたコストに見合う価値があるものなのか、自分の価値判断に基いて再検討すべき時代になっていると思います。

勿論、自転車の効用は経済効果だけではありません。健康にも良いということはダライ・ラマが自転車をこいでいることからも分かりますし、健康面も含めて詳しくは本書を読んでもらえれば良いと思います。

自転車で新しい生活を始めることは、新しい時代の象徴ともいえるでしょう。このことがピンとこないという方にこそ、本書を読んでいただいて、なぜ自転車と新時代が関係するのかを探っていただければ良いと思います。

自転車の保険

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自転車に乗って歩くと、人に怪我をさせてしまうリスクがどうしても発生します。

もちろん、クルマの事故と比べれば深刻な結果に至る可能性はずっと低いでしょう。それに、車道を走っていれば歩行者とすれ違う機会はぐっと減ります。

とはいえ、歩道と車道が分離されていない道路を走ることだってありますし、サイクリングロードに歩行者が歩いていたりもします。そして歩行者との接触事故となれば、状況によっては歩行者に後遺症が残ったり、最悪死亡したりします。

そこで、自転車の保険というものが存在します。自分が怪我を負ったときの傷害保険と、他人に怪我を負わせたときの賠償責任保険とがあります。いま問題にしているのは専ら後者です。

私の知る限り、選択肢は3種類ほどです。

ひとつは、保険会社のメニューにある自転車専用の保険。ただし、これは廃止が相次いでいて、もうほとんど残っていないようです。

次は、TSマークの保険というもの。自転車を整備士に整備してもらったときにTSマークというのを貼ってもらうと、以後1年間は傷害保険と損害賠償保険がついてくるというものです。賠償の限度額は2000万円。果たして十分なのか、ちょっと自信が持てません。勿論何もないのとは雲泥の差ですが...。

3つ目は、保険会社の個人賠償責任保険というメニュー。これは社会生活一般における損害賠償の保険です。飼い犬が他人を嚙んで怪我を負わせたといったような、自転車以外の内容も広く含みます。

これらのどれかの保険に入るべきでないかと、前から気になっていたのですが、この度、個人賠償責任保険に入ることで懸案を解決しました。ちょっと安心。

ただし、対歩行者の事故が近年増えているとはいえ、自転車事故で圧倒的に多いのは8割以上を占める対自動車の事故だということ(参考: 警察庁)は心に留めておいて良いでしょう。

私は自転車に乗るときには常にヘルメットを被っています。職場へも自転車で通っているので、出勤時にはヘルメットを被っていて、自転車を降りたらヘルメットを手に持って建物に入ります。

出勤時、自転車のヘルメットを持って歩いていたら部長と出食わしました。

ヘルメットを見た部長曰く、「お、自転車? なんか本格的そうだねー」。いえいえ全然。

ヘルメットは、以前はサイクリングロードに行くときだけ被ってたんですが、街中の方が危険じゃないかってあるとき気付いたんですよ。「それ正解」と部長。

日本だと被ってる人あまりいませんけど、オーストラリアでは義務付けられてるそうですよ。

「日本てそういうとこ成熟してないよねー」。

成熟という言葉にハッとしました。核心を一言で言い表しているのではないか。

自転車のヘルメットを被っていさえすれば成熟しているのかといえば、そう単純な話ではないかもしれない。でも、ヘルメットを一種の媒介として、我が国の社会の未成熟なところが見えているのではないか。単にヘルメットだけでなく、自転車交通のあり方の問題が背景にあって、咄嗟に「成熟」という言葉が口をついて出てきたのではないか。

軽車両でありながら歩行者の延長のようないいかげんな扱いがされていて、そのことが歩行者に危害を加える事故につながっている一方、行政や法律も市民の意識もなかなか改善がすすまない状況。未成熟というほかないのではないか。

夜、家に帰ってきた後。テレビを見ていたら、ペットブームの裏にある問題の話をしていました。日本ではなんと毎年30万匹もの犬や猫が殺処分されているのだとか。

一方、ドイツでは殺処分というのはないのだそうです。飼えなくなったペットは民間の施設が一旦引き取って、住むところを与え、別の新たな飼い主が引き取っていくのだとか。施設の運営費はなんと企業や個人の寄付でまかなわれているそうです(全額かどうかはわかりませんが)。

そもそも、ドイツでは犬を飼うのに税金がかかったり、飼っていける余裕があるかどうかなどをチェックされるということなので、いい加減な気持ちで飼い始める人が少ないのかもしれません。

これも「成熟」の違いだよなあ、と思わざるを得ません。

日本社会はまだまだ成熟する必要がある。成熟というのは、経済発展とかじゃなくて、むしろそれ以外の大事なことに目を向けることなのではないか。という気がします。

疋田智さんの最新のメルマガで紹介されていたのが、尼崎と松本の自転車レーン。ちょっとウェブで検索してみました。

どちらも車道の左側をペイントして自転車の進行方向を明示したものです。やはりこの方法が良いですね。前に紹介した宇都宮のものと同じようです。尼崎のは、逆走(右側走行)すると「逆走できません」というメッセージが見えるという親切(?)ぶりです。

前の記事で共有自転車では車やCO2は減らないのではということを書きましたが、ヴェリブで注目されているパリでは、ヴェリブ以外にも自転車を推進する政策がとられています。

車線のひとつをバス・自転車専用にするというのがそのひとつです。これが自動車を減らす効果があるのは明白です。

また、車道の中に自転車専用レーンを作ることも行なわれているそうです。ちなみにパリでは自転車が歩道を走ると罰金が科せられるそうです。

こうした自転車レーンの整備は、アムステルダムのように先行する自転車都市では当然のことです。自転車を推進して環境対策・渋滞対策とするには、こうした地道な取り組みが本流であるように思えます。ヴェリブに目がくらんでこうした本流の取り組みを見落とすようではいけません。

日本でもバスレーンと自転車を同居させる試みはあります。金沢で行われたそうです。本格導入が開始されたそうなので、今でもやっているのではと思います。

最近こんなニュースがありました。

いわゆる共有自転車の管理に、NTTドコモの通信や決済の技術を使うようです。共有自転車は細々と実験されては失敗してきたものですが、パリの「ヴェリブ」が最近成功例として注目されています。

上の記事では「ドコモでは「当社も低炭素社会の実現を目指しており、環境ビジネスへ挑戦している中で、サイクルシェアリングは環境に配慮する公共交通の手段として注目されている。(後略)」としている」といっています。

ここで疑問が生じました。共有自転車は低炭素社会を作るのに役立つのでしょうか?

自転車は環境にやさしいといわれます。人の脚力以外の動力を必要としないのだから当然です。が、自転車は別段CO2を吸収してくれるわけではありません。自動車のような環境負荷のより高い乗り物を使うはずだったところを、自転車で済ませるから、結果的にCO2が減るわけです。つまり、自動車を代替して初めてCO2が減ったといえるわけです。

しかるに、今回の共有自転車の実験は、自動車を代替するという用途にはあまり向かないように思えます。自転車を乗り降りする拠点は札幌の市街地に用意するということですから、おそらく大通の近辺なのでしょう。別の記事によると「札幌市の大通地区周辺に10〜15カ所の専用ポートを設置し、100台の自転車を有料で貸し出す」ということです。それならば、自転車に乗る人は自宅から大通まではどうやって来るのでしょうか? 自動車で? それなら意味ないですね。

おそらく、主要なターゲットは他の街から札幌を訪れた人(観光客等)なのではないかと思います。札幌に住んでいるのなら、わざわざ大通で借りるまでもなく、自宅から自転車に乗って出かければいい話だからです。

ならば、他の街から札幌に来る人はそれまで札幌都心で自動車を使っていたのかというと、そうではないでしょう。東京から札幌に出張に来てレンタカーを借りるといったことは、市外に出たりするのでなければ、普通ないはずです。例えば、すすきののホテルに泊まった人が北大に行くとする。レンタカーを借りて? いえいえ、そんなことはしないでしょう。地下鉄で行くのです。もちろんこのときに共有自転車を使ってもいいわけですが、その場合、自動車の代替ではなく、地下鉄という割合エコな乗り物の代替でしかないことになりますから、エコという観点ではあまり得がない。

どうも、共有自転車は自動車の代替としてはあまりはたらかないのではないかと思えます。都心部の近距離タクシー移動の代替がせいぜいであって、郊外から都心に流入する自動車を減らすような、より切実な問題への効果はほとんど無いでしょう。

共有自転車が都市の自転車活用という観点からあまり効果が無さそうだというのは私のオリジナルな意見ではなく、あの疋田智氏が著書『自転車の安全鉄則』(朝日新書)で言っていることでもあります。なんでも、パリのヴェリブにしても、自動車走行の削減を特に狙いとしたものではないそうです。

環境のために自転車を使うならば、自宅から出るときに自家用車でなく自転車に乗っていく、ということが肝心であるように思えます。共有自転車は、来訪者用の手軽な交通手段ではあっても、環境対策や渋滞対策になる可能性は低いと考えられます。

疋田智さんのメルマガで紹介されていたものですが、ニューヨークの自転車レーンを映した動画がYouTubeにあります。

自転車レーンは車道に作られていて、自動車とも歩行者とも分離されていることが見て取れます。ときどき自転車レーンに入り込んでいる歩行者も写っていますが...。

自転車は車両の一種なので、自転車レーンを作るならこういう構造が正しいのです。歩行者の安全をはかるには歩車分離するのが一番ですし、その方が自転車にとっても走りやすいのです。

もちろん、自転車といえばヨーロッパが本場です。アムステルダムの事例などはさまざまに紹介されていて、先進ぶりがうかがえます。

日本にも、ごく一部にはこうした「正しい」自転車レーンが存在します。

あと、一般道ではありませんが、北海道大学構内の自転車レーンも至極まっとうな作りになっています。作り、というか、車道の左端を区切って自転車の進行方向を書いただけなのですが、これで必要にして十分なのです。さすが学問の府の人たちはよくわかっていらっしゃる。

今朝のNHKニュースで、中学校の自転車教育が紹介されていました。見たと いう方もいるでしょう。

ただ単に言葉で教えるだけでは効果が薄いというので、本職のスタントマ ンにご登場願って、自転車と自動車の事故を実演するというものです。出会い 頭で自転車と自動車がお互いに気付かず、ドーン! 本当にぶつかって、自転車 の人が自動車のボンネットの上を跳ねて地面に転がり落ちるという迫力満点の 芝居です。これはすごい。

私が注目していたのは、はたしてこの教育がどういうシチュエーションを 「危険」として中学生に教えていたのかということです。自転車はどう走るの が危険なのかということを、警察がどう定義しているのかに興味があったのです。

最も注目したのは、出会い頭の衝突を模擬的に作るにあたり、自転車が右 側通行をしているという想定で作られていたことです。柵を組み合わせて交差 点の角のつもりにしていたのですが、自転車はちょうど道の右端を走る格好で 演じられていた。

ここから想像するに、「だから自転車は左側を走らないといけないんだよ」 という結論になっていたのに違いない。そうでなきゃウソだ。

自転車の右側通行がなぜ危険なのか、ちょっと考えればわかることです。 自分以外の他の車両(自転車も含めて)が左側を走っているとすれば、交差点で は出会い頭の衝突を誘発することになります。

自転車の右側通行の危険性

だけども実際には、右側を走って交差点に入る危険な自転車というのはよく見か けるのです。特に、歩道と車道の区分のない道路においてです。私の観察するところでは、右折しようとする自転車が、「右に曲がる のだから、予め右側に寄っておけばいい」と考えて、交差点の手前でわざわざ 右端に進路変更していることが多いのです。

こういうのは危険だから、きちんと左側通行を学校で教えこんでほしいもの です。上記テレビ映像から察するに、スタントマンを使った教育では正しく左 側通行の大切さが説かれていたのだと思います。希望的観測も混じっていますが。

なお、こうしたことも含めた自転車の安全全般については、「自転車の安全鉄則」 (疋田 智、朝日新書)が決定版といえる本です。