天文の最近のブログ記事

1990年代後半、JIS X 0213の開発が行われ、一般からも文字用例の募集が行われていた頃、私が調べていた本のひとつに、斉藤国治『古天文学の散歩道』(恒星社)があります。

古天文学とは聞き慣れない言葉かもしれません。これは、昔の文献の中の星や天文現象についての記述を手がかりに、これまで知られていなかった事実を導き出していくことをいうようです。本書のまえがきに挙げられている例では、古代の楔形文字の書かれた粘土板を解読したところ、年代記なのだが具体的な年が分からない。ところが、ある日の明け方の空に4つの惑星が集合して見えたという記述があり、これを手がかりに計算すると、それが実際に起こった年月日が判明した、ということです。

本書は、枕草子や太平記からシャーロック・ホームズに至るまで、いろいろな文献の天文記述の科学的な考察を、一般向けの読み物としたものです。

で、この本の中に、JIS X 0208にない漢字がいくつも現れているのです。JIS X 0213に含まれているものはたまたま全部第3水準漢字でした。

  • p. 65: 氐(てい)宿 の「氐」 面区点 1-86-47
  • p. 75: 熒惑 の「熒」 面区点 1-87-61
  • p. 99: 褒姒 (ほうじ)の「姒」 面区点 1-15-79
  • p. 100: 涇(けい)水 の「涇」 面区点 1-86-75
  • p. 122: 睎(のぞ)み の「睎」 面区点 1-88-84
  • p. 155: 羅睺(らこう)星 の「睺」 面区点 1-88-88

(複数に現れるものは最初の箇所を示しています)

氐宿というのは古代中国の星座のようなもので、熒惑というのは火星のことです。

天文分野でJIS X 0208にない文字なんてそうそう無さそうに思うかもしれませんが、古文献が絡むと出てくるわけです。

ここでとりわけ面白いのは「睎(のぞ)み」という例。これは、古典文献に出てきた用例ではありません。現代のアマチュア天文家が、すばるの星食の観測の際に作った漢詩の中に出てきたものです。該当の行を引用すると、「秒を読み独り睎(のぞ)みみる望遠鏡」。漢詩の新機軸であるのかもしれません。漢詩にも天体観測にも通暁している大変な教養人であるのは川崎天文同好会の箕輪敏行さんという方だそうです。

本書にはJIS X 0213にない字も1文字だけあり、それはp. 104の「廣 + 刂」でコウと読む漢字です。虞コウという、古代中国の梁の人物名として出てきていました。(どうも、ページに書き込んだメモと私の記憶からすると、この用例は公開レビューの時に提供していなかったかもしれない...)

ちなみにこの本では、作字か何かの際の間違いなのか、活字がすってんころりんして行から転がり落ちた具合に印刷されてしまった箇所があって興味深かったです。

北海道にいた学生時代に天文サークルに入っていたこともあって、私はたぶん普通の人よりは天文現象を多く見ていると思います。といっても、本格的にやっている人から見たら全然少ないとは思いますが。ともあれ、今まで見てきた天文現象で特別に印象に残っているもののベスト5を考えてみました。

  • 第4位 (同点): ヘール・ボップ彗星(1997年)、百武彗星(1996年)

立て続けに大変明るい彗星がやってきたのを両方とも第4位としました。百武彗星は長く伸びた尾が特徴で、ヘール・ボップ彗星は私が見た中で最も大きな彗星でした。

肉眼等級まで明るくなる彗星はたまに現れますが、これほど立派な姿を見せるのはなかなかないことだと思います。

  • 第3位: シューメーカー・レビー第9彗星と木星の衝突 (1994年)

二十数個に砕けた彗星の破片が次々と木星に衝突するという、それまで聞いたこともない現象。何か見えるのかどうかも不明なまま望遠鏡を木星に向けたわけですが、木星の表面に黒々とした衝突痕が小型の望遠鏡でもくっきり見えたのは衝撃でした。木星の自転とともに見え方を変えていき、時によっては3つの痕が同時に見えたことも。こんな現象を見ることは、生きているうちには二度とあるまいと思います。また、ちょうどインターネット(≠ウェブ)の普及期でもあり、大学のワークステーションでNASAのFTPサイトからハッブル宇宙望遠鏡による観測画像をダウンロードしたり、FAQがNetNewsで出回っていたりしたのも懐かしい思い出です。

  • 第2位: しし座流星群 (2001年)

まれに見る大出現となった2001年のしし座流星群。一つずつ数えることが困難なほど次々と流れる様は壮観でした。あまりにもたくさん出現するので、流星を見るのが飽きてくるという罰当たりな感じを抱くまでになりました。それまでに見た流星の数をこの一晩で軽く超えたことでしょう。こんなことは生きてるうちに二度とあるまいと思います。

  • 第1位: タイ皆既日食 (1995年)

これは本当に素晴らしい体験だったし、幸運でした。皆既日食が世界的に人気を集めるのが実感として理解できました。幸運というのは、皆既の数分の間にもし太陽に雲がかかったら台無しだったのが、そうはならなかったということです。長く伸びたコロナと輝くダイヤモンドリング、暑いタイの大地に吹き抜けたさわやかな風と熱い歓声を私は忘れません。

皆既日食は、遠征できる状況と天候の運に恵まれればまた見ることもできるでしょうが、さてどうなるでしょうか。

日食は古代から人の心をとらえてきた天文現象です。地球規模で見れば頻度としては決して珍しくない現象なのですが、今年は注目すべき日食が二つあります。

ひとつは、今年5月21日に日本で観測できる金環日食です。

部分日食は太陽の一部だけが欠ける日食、皆既日食は太陽全部が隠される日食ですが、金環日食は、月がすっぽり太陽の中に入ったような格好になって太陽がリング状に見える日食です。太陽と月と地球の位置関係によってこういうことが起こります。

今回の金環日食は、関東地方から東海、近畿、四国、九州南部と、結構広い範囲にわたって観測できる、日本人にとってかなり好都合な条件です。

ただあまり好都合でないのは、金環になる時間が午前7時半前後と、朝の通勤・通学時間帯と重なることでしょうか。この日は平日・月曜日です。

日食を見るには、安全のための準備が必要です。太陽の威力というのは大変なもので、たとえ9割が欠けていても目にダメージを与えるのに十分ですから、信頼の置ける観測グッズを用いることが必要です。ガラスに蠟燭のすすをつけてとか、黒い下敷きを通してとかいったことを記憶している方もおられるかもしれませんが、昔聞いた常識はいったん忘れましょう。

日食のときは、ピンホールカメラの原理によって木漏れ日が日食の形になることが知られています。私も過去の日食でその現象を見ていますが、金環になると木漏れ日も「◉」のような形になるのでしょうか? そんなことも確かめてみたいと思います。

金環日食について詳しくは、アストロアーツのサイトなどをご覧ください。

さて、今年もう一つの注目の日食は、11月14日にオーストラリア・ケアンズで見られる皆既日食です。ケアンズは観光地としても知られ、日本と時差がないので、有力かも! と最初は思いました。

ところが、この皆既日食の特徴は、観測可能な陸地がほぼケアンズとその周辺に限られること(ほかは海上)、それからそのケアンズでは朝早くに皆既となることです。太陽高度も低いようです。

ということで、限られた観測可能な場所に世界中から日食マニアが押し寄せるのではと考えられます。

最近まで旅行会社のツアーの情報も詳しくは出ていなかったのですが、近畿日本ツーリストの情報がようやくアップデートされたり、ほかの旅行会社にもあるようです。行ってみたい人は、こうした、飛行機も宿泊施設も押さえてあって観測場所も下見しているようなツアーに乗っかっていくのが、今回の場合一番良いのではと思います。

うまいこと見られれば、皆既日食は大変に感動的なイベントです。過去に皆既日食を見た経験からして(←さりげなく自慢!)、それは保証できます。やる気のある人は挑戦してみてください。Good luck!

広告