「数学ガール」中文繁体字版で気付いた「函」の第1画

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以前、「函館」の「函」の字の第1画について書いたことがありました。活字だと第1画の横線が右端まで行ったところで一旦筆を上げて真ん中あたりから第2画を始めるような格好なのが普通ですが、手書きだとここを離さずにつなげて書くのをよく見かけるという話です。函館では本当の手書きだけでなく、看板などにもよく見ます。

さてこれに関係して、一見関係なさそうな下のツイートが目にとまりました。

結城浩さんの人気シリーズ「数学ガール」の一冊、『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』の繁体字中国語版についてのツイートです。この画像の中には「函数」(関数)という言葉の表記のために「函」という漢字が出てきます。その字体が先に述べた、函館でよく見かける形になっています。

おや、台湾では (師範大学云々と見えるので多分台湾の出版社だろう) この字体が活字でも普通なんだろうか。そう思って、ISO/IEC 10646の例示字形を見てみました。ISO/IEC 10646はUnicode相当の国際規格ですが、Unicodeと違って、漢字については日本や中国、台湾、韓国等の対応する国家規格の例示字形も載せています。

それで気付いたのは、日本で現在普通の活字の「函」と同じように第1画が右端で終わっているのは(以下仮にα形と呼ぶ)、日本(J欄)と韓国(K欄)のものだけでした。その他は台湾も含めて全て、上記の「函館でよく見かける形」のように右端で折り返す形でした(同じくβ形と呼ぶ)。韓国の漢字の活字というのは日本の戦前の活字の影響を受けていると思われるので、要はα形は日本の活字に独特のデザインなのではないかと思い始めました。

近代の明朝体活字のデザインは清代中国の康熙字典に影響を受けているとされています。康熙字典でこの字はどうなっているのかと、ネットで検索できるもので見てみました。すると、見出しの字体はα形ですが、その下の説明文ではβ形になっています。前掲の記事の中で紹介した笹原先生のコラムの中でも、「『康煕字典』ですら、注文の中では「了」形が用いられており」と記されています。「了」形というのは本記事でいうβ形です。また、

歴代の書家などの筆跡を辿ると、楷書でも行書でも、「函」「凾」ともに「了」形がほとんであり、「函」という明確な字体はなかなか見当たらない。

としています。

以上のことからすると、普通だと思っていた「函」の形(α形)の方が、実はちょっと特殊なんじゃないかという気がしてきます。康熙字典の形だといっても、見出しのすぐ下で別の形(β形)が使われていて、そっちの形の方が実は主流だったのではないかと。限られた情報からの推測にすぎませんが。

もっとも、上記笹原先生のコラムにあるように「成り立ちからみれば、字形の細部にはさほどこだわる必要がなさそうだ」というのが実際のところでもあるのでしょうから、どっちが正しいとか本当だとかで無駄な労力を費やす必要はないように思います。

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