2013年10月アーカイブ

Microsoft Outlookは電子メールと予定表(スケジュール)が一つのソフトになっています。画面の左下の方のボタンで切り替えられるようになっています。

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それはいいのですが、ときにはメールと予定表を別々のウィンドウで開きたいこともあるでしょう。そういう操作ができるようには、ぱっと見には見えません。

ところが実は、「予定表」のボタン(?)の上で右クリックすると、コンテクストメニューが出て、予定表を別ウィンドウで開くことができます。おお! それを先に言ってくれよ。

知ってしまえばなんてことはないのですが、言われないと気付かないなあと思いました。

政府や地方自治体が主体になっているらしい「イランカラプテ」キャンペーンなるものがあります。「イランカラㇷ゚テ」というのはアイヌ語の挨拶です。キャンペーンのウェブサイトにはこう説明されています。

イランカラプテは、アイヌの人々のあいさつ、こんにちは。
「あなたの心にそっとふれさせていただきます。」という温かい思いが込められた、これからの北海道のおもてなしの合言葉。

この説明を読んだら、「イランカラㇷ゚テ」というのはアイヌ語の挨拶で、「あなたの心にそっとふれさせていただきます」という意味なのだ (まあ素敵)、と思う人が少なからずいるのではないでしょうか。「いるのではないでしょうか、って、それ以外にどのような解釈があるのか」と思う人もあるかもしれません。ウェブを検索すると、個人のウェブサイトなどにそうした意味を断定的に記しているものも出てきます。

ところがところが、同じサイトの別の場所には、こう説明されているのです。

萱野茂氏(1926年- 2006年 元参議院議員)は、「イランカラプテ」という言葉の原義を「あなたの心にそっと触れさせていただきます」と解釈しています。この解釈が広く知られているところですが、学術的な語源解釈として、アイヌ語学者の間では一般的に共有されているものとはいえません。

推進協議会では、「あなたの心にそっと触れさせていただきます」という、温かく、ホスピタリィ溢れる解釈を、「イランカラプテ」という言葉の意味としてではなく、「イランカラプテ」キャンペーンのメッセージとしてみなさまにお伝えしていきたいと思っています。

なんと、「あなたの心にそっと触れさせていただきます」というのは萱野茂氏の独自の解釈であって学術的な裏付けはないんですよ、このキャンペーンでも「イランカラプテ」という言葉の意味としては扱いませんよ、あくまでも私たちの「キャンペーンのメッセージ」ですよ、と言っているわけです。ええー。

これを読んだ後で改めて冒頭に引用した説明を振り返ってみましょう。よく読むと、アイヌ語の「イランカラㇷ゚テ」という言葉が「あなたの心にそっとふれさせていただきます」という意味だとは決して言っていない。「「あなたの心にそっとふれさせていただきます。」という温かい思い」が込められているのは、元々のアイヌ語の挨拶ではなく、「これからの北海道のおもてなしの合言葉」であると読めるように、巧妙に文が構成されているわけです。

お役所的な作文技法に慣れた人はともかくとして、普通の人にとっては、やはりアイヌ語の挨拶の語源についてミスリーディングな説明になってしまっているのではないかと思えます。「あなたの心に云々」が「イランカラㇷ゚テ」という言葉の語源でないというのなら、それはどこからきたのか、なぜそれを前面に出すのかという根本的な疑問が湧いてこざるを得ません。

なぜこういうことになったのか。これは私のすごい邪推なんですが、萱野茂氏の説に目をつけた人がいて、これは使える、これを前面に出していこう、と計画を進めたものの、かなり進行した時点でアイヌ語の研究者か誰か詳しい人から、「いやそれはちょっと違う」といった進言をされて、しかし既に引っ込みがつかなくなっていたので、かかる微妙な説明になってしまったのではないか。あくまでも邪推ですよ。

そもそもこの言葉はいったいどういう意味なのか。図書館でちょっと調べてみました。

問題の解釈は「萱野茂のアイヌ語辞典」に記されていました。

見出しに「イランカラㇷ゚テ [i-ram-karap-te]」と記されているのですが、このローマ字が曲者です。"ram" としていますがこれは "ran" の誤りでないかと思います。"ram" であるなら、片仮名表記は「イラㇺカラㇷ゚テ」になるはずで、実際他の語では「イラㇺコイキ [i-ram-koyki]」のように母音を伴わないmの音には小書きのㇺを使っているからです。

"ram" であるから、これが「心」であり (ram = 心 は当辞典にも他の辞典にも見える)、「あなたの心に云々」という解釈につながるのですが、「ラン ran」とするとこれは「下りる、降る」という別の意味の言葉になるので、問題の解釈は成り立たなくなると思われます。他の辞書(中川裕「アイヌ語辞典」千歳方言)も「イランカラㇷ゚テ irankarapte」とするので、萱野茂氏の辞典のローマ字綴りだけが外れている格好です。

なお付け加えると、この挨拶の言葉は日本語の「こんにちは」や英語の「hello」のようにいつでも使うものではないというような説明をしているものが複数見受けられます。中川裕氏の辞書には「本来は通常の挨拶言葉ではなく、あらたまったときに男性のみが用いる言葉だったが、現在はもっと軽い感じで使われている」とします。萱野茂氏の辞書も、「何回もあって顔見知りになったら「萱野さん、へー」という具合に打ち解けた調子になる」と記しており、要は普段は使わない言葉であるように読めます。他の解説書には「久しぶり」という意味を記しているものもあれば、初学者向きの「エクスプレスアイヌ語」のようにこの挨拶を全く記していない本もあります。

昆布という地味な海藻から、これほど日本の文化と歴史を語ることができるものかと思わせるのが、奥井隆『昆布と日本人』(日経プレミアシリーズ)でした。

昆布は京都や大阪といった関西の料理によく使われます。また沖縄でもよく食べられるそうです。昆布の商人(本書の著者がそうなのですが)は北陸にいます。しかし産地はほとんど北海道です。

関西、沖縄、北陸、北海道。江戸時代の北前船がこれらの地域を結びました。産地の北海道から北陸を通って消費地の関西へ通じるのはもちろん、薩摩藩が沖縄を介して清国と昆布の密貿易を行って財をなし、明治維新の原動力になったとさえいわれます。北へ南へ、ダイナミックな海上活動が想起されます。

昆布自体の歴史は古く、かつては朝廷への献上品であり、貴重品だったために神事や仏事にも用いられ珍重されたということです。また肉を食べない仏教寺院の精進料理に重要な役割を果たしてきました。日本の食文化を豊かにしてきたといっていいでしょう。本書には、著者の会社が昆布をおさめている福井県の永平寺における、修行としての食事について紹介されていて印象的でした。単に食べておいしいかどうかというだけでなく、仏教の精神文化にまで昆布からたどりつくことができるわけです。

戦後の食生活の変化や東京進出の困難、フランスの料理人に昆布を紹介するといった波瀾に富んだエピソードもあわせて (そう、だからこの本は、逆境に立ち向かう昆布商による「昆布戦記」だということもできます)、昆布の奥深い背景を面白く読める本でした。だしという和食の重要なエッセンスを担う昆布を知ることには大きな意味があるといえるでしょう。

Mac OS Xには標準でアイヌ語用の入力方式が搭載されています。アイヌ語のモードにした上で、例えば "sirpopke" とローマ字を打鍵すると「シㇼポㇷ゚ケ」となり、「ㇼ」や「ㇷ゚」といったアイヌ語表記用の片仮名を自然に入力することができます。これは市場性を考慮するとなかなかすごいことだと思います。

それはいいのですが、こうして入力できるにもかかわらず、一部の文字、Unicodeで結合文字を使わないと表現できない文字について、OS Xに標準添付のソフトウェアで適切に表示できないことがあります。

端的には、アイヌ語の片仮名表記に頻出する「ㇷ゚」が挙げられます。この文字はJIS X 0213では単独の符号位置(1面6区88点)が与えられていますが、Unicodeでは合成用の半濁点(U+309A)を「ㇷ」のあとに続けて、ふたつの符号位置を並べて表現する必要があります。

例えば、このページをOS Xに添付のSafariで見ると、「ㇷ゚」の濁点のところに妙に間が空いてしまうと思います。しかし、この文字列をマウスでコピーして、やはりOS添付のテキストエディタであるテキストエディットに貼り付けると、きちんと一文字として表示されるはずです。Firefoxでは一文字の幅に表示されますが、編集用のテキストエリアでは表示が若干崩れるようです(今まさにMac上のFirefoxで編集しています)。

フォントのせいなのか文字表示のライブラリのせいなのかよくわかりませんが、ユーザの視点からすると、まだちょっと惜しいという感じです。

同種の文字としては「ト゚」などがありますが、今日での使用頻度はあまり高くないと思います。

ちなみに「ㇷ゚」については朝鮮語(韓国語)音を片仮名で記すのに利用する人もいるようです。

【2013年10月26日追記】この記事を公開した直後なのですが、新たに配布されたOS X MavericksについてくるSafariでは、上記の問題は起こらないようです。ただし、MacでなくiPadのSafariでは、iOSの最新版7.0.3でも上記と同じ問題があります。

Canon Image Gatewayのウェブサイト「岬めぐり100選」は、北海道から沖縄まで、全国各地の風光明媚な岬を集めています。

この中に、JIS第3水準漢字を含む岬があります。

それは、岩手県宮古市、本州最東端として知られる(とどヶ崎です。

この文字「魹」はJIS X 0213の第3水準、面区点番号1-94-33です。

このウェブサイトでは、平仮名を使って「とどヶ崎」としていますが、これは「魹」の入力方法が分からなかったか、あるいは表示できない環境があるかもしれないと判断したかのどちらかでないかと思います。

宮古市のウェブサイトでは、ページの見出し部分で画像を使ってこの字を表示しています。本文では片仮名を使ってしまっています。ウェブページの文字コードがShift_JISだからで、UTF-8あるいはShift_JIS-2004、EUC-JIS-2004等の第3第4水準文字コードを使えば、文字として「魹ヶ崎」を符号化できます。

Macでは特別な設定をしなくとも仮名漢字変換で「とどがさき」と打てば「魹ヶ崎」が出てきます。SKKのJIS第3第4水準漢字辞書でももちろん変換できます。「本州最東端」という注釈もついています。

何かの異体字なら別の字体を使って済ませることができますが、これはそうでなく、第1第2水準にない字種ですから、こうした文字のサポートは大変重要です。

この地名の例は拙著『プログラマのための文字コード技術入門』でも紹介しています。

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