特許だけでなく、標準化だけでもなく

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日経新聞のサイトに、「特許で勝ってアップルに屈したノキア」というフィ ナンシャル・タイムズからの興味深い翻訳記事が載っていました。

ノキアはアップルとの特許紛争で、アップルから多額の特許使用料を受け取るという和解にこぎつけたといいます。しかし、「訴訟合戦の勝利でノキア株主の痛みは和らぐものの、携帯電話ショップという主戦場での敗北が続けば、根本的な問題の解決にはならない」と指摘しています。

先に技術を開発して特許料を得ることに成功しても、肝心のビジネスではノキアはアップルに市場シェアを奪われているということです。記事の小見出しには、「技術先行を生かせなかったノキア」「端末では苦戦続く」と、厳しい言葉が並んでいます。

特許でだけ優位に立っても、ビジネスで勝てるとは限らないことを示しています。

妹尾堅一郎『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』という2009年に発行された本があります。ここでは、問題意識として、DRAMメモリー、DVDプレーヤー、液晶パネルなど、日本が技術的に先行しても世界的に普及するにつれてどんどんシェアを落としてしまっているものが多いことを挙げています。「技術で勝っても、事業で負ける」と述べています。それに続けて、「技術で勝って、知財権をとっても、事業で負ける」と指摘しています。日本の半導体産業が束になると1万もの特許をとっているけど、(数え方にもよるが) 320しか特許をとっていないインテル1社に勝てないのはなぜか、というのです。

さらに続けて、「技術で勝って、国際標準をとっても、事業で負ける」とも述べています。かつては知的財産権(端的には特許)をとることが大事だ、と考えられていたことがあった。それで特許をたくさんとったけど、勝てない。すると次に、国際標準をとっていないから勝てないのだ、という議論になった。一時期、日本は国際標準をとるべしと盛んに言われた記憶があります。でも、「国際標準をとっているにもかかわらず負ける事業の例も少なからず出てきました」と著者は指摘します。

特許にしろ国際標準にしろ、それ単体だけで考えていたのではいけないのだろうと私は思います。自社製品を広めていく大きな戦略の中の手駒として、特許をどう使うか、標準化をどう使うか、を決めていかなければならない。ただ闇雲に特許をとればいいとか、国際標準化バトルに勝利したら何もかも良くなるとか、そういうことではないのでしょう。

標準化については別の記事でこんな例も報告されています。南米の地上デジタルテレビの規格は、頑張って日本の規格が採用されるようになった。日本が標準化バトルに勝ったわけです。それで日本のメーカーが得をしたかというと、そうでなくて韓国メーカーがみんな持っていってしまった。

〔南米の〕8カ国すべて、日本の規格で地デジを放送することになりました。しかしそんなことをやっているうち、規格はとったけれども地デジが映るテレビはぜんぶサムスンに取られてしまった。サムスンとLGはずっと見ていたんですよ。そして日本の地デジが南米を制覇しそうだとみた瞬間、一気呵成に生産していったんです。だから南米ではサムスンやLGのテレビが標準になる。日本が後から行っても、もう勝てないということで、また実をとられてしまった。

(元サムスン電子常務・吉川良三氏「サムスン電子の躍進に学ぶ、グローバル市場を見据えたものづくり」)

標準化をそれ単体だけでやっていても駄目だということなのでしょう。

この記事は大変面白いので、日本の電機メーカーの人は全員読むべきでないかと思います。

特許や標準化がもう意味がないということを意味しているわけではない。それはそれで必要なのだけれども、何のためにやっているのか、自社製品を世界に広めるために役立つやり方になっているのか、ということを考えなければいけないのだと思います。より高い視点で戦略を作ることが必要なのでしょう。

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