「叱る」は間違いか?

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安岡先生の「新常用漢字表が迫るUnicode移行、「シフトJIS」では対応不可能」は、気になる点がふたつありました。ひとつは、「シフトJIS」では対応不可能としている点、もうひとつは、「𠮟」や「剝」がJIS X 0208で表現不可能であるかのように書かれている点です。

JIS X 0213:2004にはShift_JISの上位互換であるShift_JIS-2004という符号化方式がありますから、これを使えば「叱」0x8EB6に対する「𠮟」は0x9873というコード値で見事に表現可能です。『「シフトJIS」では対応不可能』という文言は、第2水準漢字までしかサポートしないShift_JISに限定すれば成り立つとしても、第3・第4水準漢字を表現可能なShift_JIS-2004という上位互換のコードを使えば(私は毎日使っています)あたりません。Shift_JIS-2004はEmacsでもサポートされています。

第2の点としては、JIS X 0208:1997が実際には、28区24点に対応する文字として「叱」と「𠮟」の両方を表現可能だと規定しているということです。つまり、Shift_JISの0x8EB6を出力する際に「叱」としても「𠮟」としてもいいのです。「𠮟」が「叱」とは別の区点位置としてJIS X 0213:2004に追加されたのは、例示字形を表外漢字字体表にしたがって改める際に、Unicodeがバージョン3.1で導入した「拡張B」において「𠮟」をもともとあった「叱」とは別の字として追加してしまっていたため、単純に28-24の例示字形を変えるとUnicodeとの変換表を変えなければいけなくなるということで、「表外漢字UCS互換」として特別に追加されたものです。その際、面区点位置1-28-24は「叱」専用に変更されました。これはJIS X 0213に対する変更であって、JIS X 0208に対してではありません。したがって、JIS X 0208としては今でも28-24で「𠮟」を表現可能なのです。(今後のJIS X 0213への移行のしやすさを考えると28-24を「叱」専用のようにみなした方が話が単純にはなります。単純ですが、正確ではありません)

もっとも、安岡先生が上のような事実をご存じでないはずはないので、意図的に話を単純化して書かれたものでしょう。

「しかる」の意味の漢字の字体として、現代の日本では「叱」も「𠮟」も両方使われています。漢和辞典には「しかる」が「𠮟」であり、「叱」は別字であるとするものがありますが、実際の文字運用とは合致しません。JIS X 0208:1997もそのことに言及しています(規格票p.276)。仮にJIS X 0208の28区24点が「叱」にしか対応しないと決めると、「𠮟る」などと印刷された文字が符号化できないことになり、大変不便になってしまいます。

JIS X 0208:1997に説明されているところでは、JIS X 0208の規格票の例示字形としては、第1次規格(78JIS)ではもともと「叱」の字体で印刷されていたものが第4刷への正誤票において「𠮟」に変更したのですが、のちの改正ではまた「叱」に戻っています。

また、同じくJIS X 0208:1997の説明では「新字源」と「大漢和辞典」では「しかる」の字は「𠮟」であり、「叱」は大漢和辞典では「カ」と読む別字扱いになっていることが説明されています。そのうえで、コンピュータのフォントや活字や、あるいは手書きでも、「しかる」の意味で「叱」が実際には多く見られることが述べられています。

漢和辞典的には「しかる」を「叱る」と書くと間違いだとして𠮟られてしまうのかもしれませんが、現実の文字運用上は「叱」と「𠮟」に区別がないといってよいでしょう。解像度の低いコンピュータの画面では区別がつきづらいということもあるので、区別しない方が本当は便利だと思います。

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コメント(1)

呼びました? 確かにJIS X 0208の包摂規準を(それも互換包摂まで)計算にいれると、今回の4字は何の問題もありませんよね。でも、それだとたぶんかなりマズイことになるってのは、一年ほど前に http://slashdot.jp/~yasuoka/journal/461598 なんかでも議論した通りです。包摂規準をちゃんと理解している方々は、元記事の次の文「実用上それで問題がないと考えられていた」を読めば、そういう私の苦悩を理解していただけるはずなんですが…。

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